旬の野菜をもっと美味しく!「湯洗い」「50℃洗い」で変色防止・野菜の鮮度と食感をキープする科学
- 山野熊さん

- 7月28日
- 読了時間: 4分
更新日:8月8日

皆さんは野菜の下処理に「湯洗い」を取り入れていますか?一見、野菜がクタッとなりそうに思える湯洗いですが、実は野菜の変色を防ぎ、しんなりした野菜をシャキッと蘇らせる驚きの効果があるんです。今回は、この湯洗いのメカニズムを科学的に深掘りし、皆さんの野菜料理をさらに美味しくするための秘訣をご紹介します。
湯洗いとは?その驚きの効果
湯洗いとは、その名の通り野菜を短時間お湯にくぐらせる調理法です。これにより、以下のような効果が期待できます。
変色抑制: 特に、アクの強い野菜の切り口の変色を防ぎます。
食感改善: しんなりしてしまった葉物野菜がシャキッと蘇ります。
風味の向上: えぐみや苦味が軽減されることがあります。
<湯洗いで野菜が変色しにくくなる科学的理由>
野菜が変色する主な原因は、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素の働きです。この酵素は、野菜を切ったり傷つけたりすることで細胞が破壊され、空気中の酸素とポリフェノールが接触することで活性化し、褐色物質(メラニン)を生成します。これが、りんごや茄子を切った後に茶色く変色する現象の正体です。
湯洗いを行うと、このPPOの働きを効果的に抑制することができます。『食品と酵素』(光琳社, 2017)にも詳しい記述があるように、多くの酵素は熱に弱く、短時間の加熱によって失活します。 湯洗いによる加熱は、このPPOの立体構造を変化させ、酵素としての機能を失わせる(失活させる)ことで、ポリフェノールが酸化されるのを防ぎ、変色を抑制するのです。
茄子の断面における化学反応(イメージ)
〇通常の変色プロセス:
ポリフェノール (無色) + O₂ (酸素) + PPO (酵素) → メラニン (褐色物質)
〇湯洗い後の変色抑制プロセス:
PPO (活性型) --(加熱)--> PPO (失活型) これにより、ポリフェノール + O₂ + PPO (失活型) → 変色しにくい
<しんなりした野菜がシャキッとする科学的理由>
しんなりしてしまった野菜が湯洗いによってシャキッと蘇るのは、主に植物細胞の「膨圧」が回復するためです。
植物の細胞は、細胞壁という丈夫な構造に囲まれており、その内側には液胞という水を蓄える袋があります。植物細胞が新鮮な状態を保っているのは、液胞が細胞内に水分をたっぷり蓄え、細胞膜を細胞壁に押し付ける「膨圧」がかかっているためです。野菜がしんなりするのは、水分が失われ、この膨圧が低下した状態です。
湯洗い、特に冷水にさらす工程を組み合わせることで、以下のメカニズムで膨圧が回復すると考えられます。
細胞膜の透過性の変化: 短時間の加熱により、細胞膜の透過性が一時的に変化すると考えられます。これにより、その後の吸水が促進されやすくなります。
水の急激な吸水: 湯洗い後、冷水にさらすことで、細胞内外の温度差と浸透圧の差が大きくなり、細胞はより効率的に水分を吸収しようとします。藤原ら(2012)の「植物組織における膨圧回復と水分ポテンシャルの関係」に関する研究でも、植物組織の水分ポテンシャルと膨圧回復の関係が示唆されており、急激な吸水が膨圧回復に寄与すると考えられます。
細胞壁の剛性の回復: 水分を十分に吸収し、膨圧が回復することで、細胞全体が張りを取り戻し、野菜はシャキッとした食感を取り戻します。
農研機構 野菜茶業研究所の「葉菜類のポストハーベスト処理技術」に関する技術資料にも、葉物野菜の鮮度保持に水分管理が重要であることが言及されており、湯洗いはこの水分管理の一助となると言えます。
レタス、グリーンリーフ、キャベツの断面における膨圧回復のイメージ
しんなりした状態: 細胞壁--[細胞膜]--液胞(水分少ない)
湯洗い後シャキッとした状態: 細胞壁--[細胞膜]--液胞(水分多い) --(膨圧上昇)--> 細胞壁を押し広げる
まとめ
湯洗いというシンプルな一手間が、野菜の変色を防ぎ、しんなりした野菜をシャキッと蘇らせる、まさに「科学の力」でした。特に、ポリフェノールオキシダーゼの失活による変色抑制効果と、細胞の膨圧回復による食感改善効果は、日々の料理に大いに役立つでしょう。
ぜひ今日から湯洗いを試して、野菜の新たな魅力を発見してみてください。旬の野菜が持つ本来の美味しさと鮮度を、最大限に引き出すことができるはずです。
参考文献
農研機構 野菜茶業研究所「葉菜類のポストハーベスト処理技術」
『食品と酵素』光琳社, 2017
藤原ら (2012). 植物組織における膨圧回復と水分ポテンシャルの関係. 園芸学雑誌, 81(1), 86-92.













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