でんぷんの基礎知識と料理への応用ガイド
- 山野熊さん
- 7月17日
- 読了時間: 4分

和洋中問わず、あらゆる料理に登場する「でんぷん」。その特性を理解すれば、料理の仕上がりが大きく変わります。この記事では、でんぷんの基本構造から調理への応用までを詳しく解説します。
1. でんぷんの種類と特徴
でんぷんは、植物が光合成で作り出す多糖類で、主に以下の2種類に分けられます:
アミロース(amylose):直鎖状の構造。粘りが少なく、パラっとした仕上がりに。
アミロペクチン(amylopectin):枝分かれ構造。粘りが強く、もっちりした食感に。
この割合によって、米・じゃがいも・小麦粉などの性質が異なります。
主なでんぷん源と特徴:
原料 | アミロース割合 | 特徴 |
うるち米 | 約20% | 普通のご飯。適度な粘り。 |
もち米 | 0% | すべてアミロペクチン。強い粘り。 |
じゃがいも | 約20% | 冷めるとザラつく。透明度高い。 |
片栗粉 | ほぼアミロペクチン | 加熱で強いとろみ。 |
小麦粉 | 約25% | グルテンとともに粘性を出す。 |
2. でんぷんの糊化(こか)
でんぷんに水と熱を加えると、粒が水を吸収して膨らみ、粘りが出てきます。これが「糊化」です。
糊化開始温度:60℃前後
完全糊化:80〜90℃付近
粥、ホワイトソース、あんかけなどが代表的。
3. 調味料の糊化への影響
砂糖:でんぷんと水の結合を阻害 → 糊化温度が上昇(遅れる)
塩:適量なら安定化するが、濃度が高いと糊化を抑制
酸(酢、柑橘果汁):糊化中のでんぷんを分解 → とろみが出にくくなる
→ とろみを出す前に砂糖や酢を入れすぎると失敗の原因になります。
4. でんぷんの老化(劣化)
糊化したでんぷんが時間の経過や冷却によって再結晶化し、硬くなります。
ご飯が冷めて固くなる現象も老化の一種
老化はアミロースが多いほど早く進行
冷凍・解凍でより進行しやすい
防止法:
冷凍後すぐ加熱する
食用油や糖分を加えておく(老化防止)
5. でんぷんのデキストリン化
デキストリン化とは、でんぷんが高温(150℃以上)で乾燥加熱され、分解されること。糖の一歩手前の状態になります。
デキストリンとは:
粘性が弱く、溶解性が高い
甘味は少なく、食品のとろみづけや粉末調味料に使われる
フライの衣や炒め物で加熱したでんぷんはデキストリン化して香ばしさを生む
6. でんぷんのゲル化(ゲル化とは)
糊化したでんぷんを冷やすと、網目構造の中に水を閉じ込めてゲル化します。プリンやゼリーのような半固体状になります。
水分が多い → やわらかいゲル(例:わらび餅)
水分が少ない → しっかりしたゲル(例:練り羊羹)
※ゲルとは「固まりつつも水を含む状態」
7. でんぷんの調理応用
片栗粉でとろみ:水溶き片栗粉を最後に加えて仕上げる
米の炊飯:吸水・加熱で糊化 → 冷めると老化
ホワイトソース:小麦粉の糊化+油と乳の乳化
和菓子:でんぷんのゲル化を活用(くず餅、わらび餅)
焼き物:高温でデキストリン化し香ばしさUP
8. 加工でんぷん(改良でんぷん)
食品工場や調理加工で使用される「加工でんぷん」は、天然でんぷんを物理的・化学的に加工して機能性を高めたものです。
酸処理でんぷん:とろみが出やすく、冷めても持続
アセチル化でんぷん:冷凍耐性があり、冷めても硬くなりにくい
酸化でんぷん:とろみが軽く、透明感が強い
代表料理とでんぷんの活用
料理名 | 使用でんぷん | 調理特性 |
あんかけ焼きそば | 片栗粉 | 糊化で強いとろみ、光沢感あり |
ホワイトシチュー | 小麦粉(ルウ) | バターとの炒め+乳でなめらかに |
わらび餅 | わらび粉(でんぷん) | ゲル化でぷるぷる食感 |
揚げ餃子 | 小麦粉・でんぷん | 高温でデキストリン化 → カリッと香ばしい |
炊き込みご飯 | 米でんぷん | 糊化によってふっくら仕上げる |
まとめ
でんぷんは単なるとろみ素材ではなく、糊化・老化・ゲル化・デキストリン化など、料理の質感や香りに大きく関与しています。でんぷんの科学を理解すれば、煮物・炒め物・お菓子まで、料理の幅がぐっと広がります。
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